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「完全版 マウス」 アート・スピーゲルマン

漫画である。
最近は漫画をあまり読まなくなった。なんというか主として人物のの絵柄が今風のものが合わなくなったような気もしている。手に取ってみると読み進める気がなくなることが多い。

本書は漫画といってもホロコーストを生き延びた父親のこと、そしてその父と自分の葛藤を描いた、ドキュメンタリーであります。

ネズミユダヤ人、猫はドイツ人、アメリカ人は犬、ポーランド人は豚。
その意味は僕にはわからない。とても単純に、犬>猫>ネズミの順位で力の強さを表しているのかもしれない。

ホローコーストを生き延びた父親から聞いた話が主ストーリーになっている。
ネズミと猫にでもしなければとても描くことはできない話だ。
横糸として父子の葛藤も描かれる。

反戦も人道に対する罪への糾弾もない。
淡々と煙になってしまった父の知人、安全のために父母と別れたがゆえにそこで煙にはならなかったが心中した著者の兄、肉親との葛藤のことが本当の主題か?と思わせるほどだ。

いままた戦争の時代に入りつつあるような世情だ。
何をもって敵と考え、あるいは差別すべき対象とするのか。
動物に仮託したからこそ描けたホローコーストでの経験談であるのは間違いないだろうが、むしろ現在進行形の著者アートの心象に興味を惹かれる。
アウシュビッツやガス室のリアリティに対し、生き残った後しか知ることできない立場でのもどかしさは明示的には描かれていない。

起きてしまったことは変えられない。何ができるのだろうか。そんなことをふと考えるのだ。

☆4

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