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「宗教・地政学から読むロシア 」 下斗米伸夫

アイキャッチの著者の写真は西日本新聞の記事 のものです。

日経ブックプラス

久々の固めの本である。

正直なところロシアとウクライナの問題はよくわからないでいるし、本書を読んだから理解が深くなったかといえば非常に難しい話であって付焼刃的に多少ここに至る沿革の一部の理解が進んだかもしれないという程度である。

ちなみに僕の理解では本書はプーチンの現在のある側面について語っているが、現在のプーチンの動きを考えると、本書で論考されているものは時期的にもすべてではないだろうと思う。ただ言語にしてもわずかに異なるだけのような隣国同士のお互いに対する雰囲気がどうしてここまですれ違っているのか、また発端ともいえるウクライナ国内の内戦がどうして起きていたのかを理解する補助線にはなると感じた。

そもそも1000年も前のキリスト教の受洗からのロシアの歴史と他民族・他宗教の国家連邦としてのソ連。そしてその崩壊と再編を理解するなどということは、僕にはとても難しい。第3のローマということが本書の副題にもなっているのだが、そもそも第一のローマが理解できていないのだから、まあある意味手の打ちようがない。キリスト教世界のことはよくわからんのであります。

それでも何となくわかることは、ロシア(モスクワを首都とした国家として)が東ローマ帝国を「正統」として継承する宗教国家として肌身で感じている人たちがロシア人なのだろうし、その意味でウクライナの東部は「ロシア」であり西部はロシア人の取ってロシアではなかったのだろうということ。そしてソ連以前の王朝において、あたかも日本の神道が長い間そうであるように国家仏教として受容したような、政治的な意味合いで「正統」ではなかった感じなのかもしれないと想像できること。革命で王朝を打倒し共産主義国家に変貌する過程でも「正統」は回復することなく、かつ絶えることなくロシア人の中に残っていたのだろうと思えることが、日本人の僕にイメージできる精いっぱいのところだ。

本書を読んで、ウクライナ特にキエフ(キーウ)はウクライナが正統な<ロシア>と思うウクライナ人もいるだろうし、あくまでウクライナはウクライナであり宗教的にもロシアではなくヨーロッパなのだと思うウクライナ人もいるだろうこと、そしてあくまでウクライナはロシアの一部だと考えるウクライナ人もいるだろうことは想像できる。※本書でいうルーシの概念が今一つつかめないので<ロシア>と書いた。

厄介なのは例えば中共から見て「中華民族」ははたから見て「漢民族」であるというわかりやすさがないのだ。
本書を読むとなぜそうなるのかが多少理解できた。

同時に西欧と我々がイメージする国家群は実は独仏あたりでUKとか北欧は度も違うんじゃないかとか、西欧と東方スラブの人種間の何となくしっくりこない様子は何なのだろうとか、知見のなさを自覚させられた。
日本は海で隔てられているので琉球とかアイヌなどの問題も国土感覚でいえば割とひとくくりに把握しやすい。(でもなんで台湾と一つにならんかったのかというと不思議なのだが海流のせいかもしれない)大陸の国家というのはかなり民族も言語もそして国土もグラデーションになっていて、おそらく宗教と血縁の方が強く認識されるのだろう。

本書は今回のウクライナへの戦争の前の書籍だから直近の状況は反映されていないし、プーチンへ至る精神的な流れとプーチンの属人的な判断に関する推察はできていると思うが、優れて実務的なプーチンの政治的・経済的な判断の考察がされているとは言えないと思う。
それゆえ単純に宗教・精神的な流れだけで、両国間の紛争に関して判断したりすることはできないが、西欧からの視点だけで見ているよりは随分と「わかる」気はする。

国境線を武力で移動することは間違っているという前提がない世界はやばい、ということからすれば、戦争するよりも、話し合いをしてもらいたいものだが、どうもどちらも正しいことをしている状態で、どちらの価値観も理解しずらい日本は対応に苦慮せざるを得ない。
今のところNATO=アメリカにくっついていってる状態なのだろうけど本当にそれでいいのか、疑問が深まる内容でありました。

☆4

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