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「日本の地価が3分の1になる」 三浦展

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3年前の出版でしたが、著者のほかの書籍(下流社会)を読んだ際の印象として、話題になること本が売れることを目的としているように思え、あまり好感を持てなかったこともあり、手に取る気が起きなかった本です。

中身はとにかく多くの図表が提示されていて(共著となっている清水千弘氏の研究成果)、データに基づく将来予測の体を取っている。

興味深いのは「現役世代負担率」が地価形成における主要な要因としてとらえていることでしょう。

少子高齢化の進行により、現役世代負担率の上昇が進むと、地価が驚くべき下落を起こすという予測は、現実に空家が大量に発生していることや、消滅が予想される自治体の報道などもあり、一般の耳目を集めやすい内容だと思います。

現役世代の減少への対案的に「移民」や「就労年齢の延長」などを取り上げて論じているが、地価の形成に関して現役世代負担率のい影響をあまりに過大に取り扱っているように思います。

不動産の実務的に言えば、今でも不動産業者として取引が成立しない地域が存在し、逆説的ですがそうした地域では不動産業者が存在しません。

地価の鑑定に当たっては、原価法・収益還元法・取引事例法があるとされていますが、収益還元化価格がゼロの土地には実務的には価格のつけようがありませんから、何らかの付加価値をつけて(開発をして)使用収益が可能な状態にして初めて価格が付くわけです。

不動産が他と決定的に違うことは、そのものを移動させて収益性を変化させることは、基本的にはできないことだと思います。

交通の整備により時間面での距離を短くすることはできるし、そのことにより時間と環境などのバランスを変化させ新たな価値を付加することはできますが、物理的に移動することはできません。

人口増加の局面では、都市部に集中する人口が周辺部にスプロール現象を起こして、開発がどんどん進みました。

人口減少局面ではおそらく逆のことが起こると思われますし、すでに現実に起きていると思います。

自分の経験した例では、小田急線橋本駅からバス便20分以上の大規模分譲地の例があります。

そこは約500世帯の大規模開発分譲地でしたが、初期に取得した世代は緑多く、通勤が1時間半程度の広い一戸建てで子育てを済ませ、年金生活に入っています。

子世代は労働環境の流動化により、通勤時間の短縮を求めより駅に近いマンションなどに住み実家には戻りません。

分譲地の高齢化が進み、空き家も多く、中心部に設置されていた商店街はほぼすべて閉店しています。診療所も小さなスーパーマーケットもなくなった分譲地ではクリーニング店のみ営業しているような状況でした。

子世代と親世代の協議により、健康げ心配になった親世代を都心に移すため自宅を売却しようとしても基本的には「売れない」のです。

当時、セカンドハウスとして利用すること以外に展望はなさそうな気がしましたが、それがすでに10年以上前の話です。

現役世代負担率を自治体や地域ごとに論じて地価が大幅に下落するという仮説は、興味深いです。

しかし、現実に起こることは人口の移動が先で、むしろ高度利用可能な地域については需要が増加するのではないかと個人的には予想しています。

また、移民の問題は行政が大上段に構えて決めていく前になし崩し的に様々な在留許可条件で海外から人が入ってくることは食い止めようがないと思います。確かにきちんとした施策を行わないと単純労働低賃金では魅力のない国になり外国人は増加しないかもしれません。

しかし、現在の個人資産は高齢者に偏在しており、現役世代負担率は受益者負担割合の変更などにより変化させ得るものだという認識を私は持っています。必ずしも人口を人為的に増加させずとも問題の解決は可能なのではないかと思われる要素が今の日本にはあるように思うのです。

本書の最後に鼎談がありましたが、そこで論じられている内容が実態に近く、現実に地価が大幅に下落する地域と逆に上昇ないし下落しない地域の乖離が大きくなり、私たち不動産業に関わる者としての事業の検討、個人として不動産を取得する方の方針検討が必要になっていくことは間違いないとしても、現役世代負担率ですべてを検証することには無理があるのではないかと感じざるを得ませんでした。

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